眼科の外来に患者様が受診されました際に、問診において「膠原病(こうげんびょう)の治療をしている方」または「確定診断はついていないが膠原病を疑われ検査中の方」の多さには本当に驚いております。
そもそも、この膠原病とはどの様な病気なのか、また眼科的疾患との関連はどの様なものがあるのかを中心にお話し致したいと思います。
この項目は「眼疾患と症状」ですが、膠原病に関連する眼疾患の症状に関しましては最後に記載しております。少々長くなりますが膠原病も対岸の火事ではございません。なるべく判り易く、長文は控え、表を用い、箇条書きに致しましたので最後まで一読の程お願い申し上げます。
★膠原病とは:全身の複数の臓器に炎症が起こり、臓器の機能障害をもたらす一連の疾患群の総称
完全な病態の解明は、未だ成されていない。
★膠原病で起こりうる主な眼の病気(→以降は危険な合併症)
- 乾性角結膜炎(ドライアイ)
- 強膜炎、上強膜炎
- ぶどう膜炎(虹彩炎・虹彩毛様体炎・網脈絡膜炎・全眼球炎)→ 続発性緑内障
- 網膜病変(眼底出血・網膜血管閉塞症)→ 続発性緑内障 新生血管緑内障 増殖性網膜症
- 視神経症(虚血性視神経症・圧迫性視神経症 等)
- 治療薬による影響:ステロイド長期内服・点滴の副作用→白内障・高眼圧症・緑内障
★膠原病、及び周辺疾患の種類★
このA・Bは、す~っと眼を通す感じで気楽にお願いします。次の赤字から熟読をお願い致します。
A.古典的膠原病
○関節リウマチ
○全身性エリテマトーデス (=SLE)
○強皮症:シェーグレン症候群を合併
○皮膚筋炎・多発性筋炎 :合併しやすい病気のうち特に注意しなくてはならないのは間質性肺炎と悪性腫瘍である。治療薬であるステロイドの長期内服の副作用が懸念される。
○混合性結合組織病 :全身性エリテマトーデス、強皮症、多発筋炎の特性を合わせ持つ事が特徴の疾患
B.その他の膠原病・膠原病類縁疾患
- シェーグレン症候群
- Wegener(ウェゲナー)肉芽腫症
- アレルギー性肉芽腫性血管炎 (=チャーグ・ストラウス症候群)
- ベーチェット病・側頭動脈炎・リウマチ性多発筋痛症
※リウマチ性多発性筋痛症自体には眼科的合併症は少ないモノの、同疾患に側頭動脈炎の合併が診られないか否かが眼科的合併症の発症率を推測する上では重要。また治療薬(主にステロイド)による副作用に対する眼科的定期検査は必須である疾患である※
★膠原病関連疾患で眼科的に最も身近で有名なものは・・・シェーグレン症候群です。
シェーグレン症候群の特徴的な眼症状はドライアイ(乾燥性角結膜炎)と同様です。
症状:眼の乾燥感、異物感、まぶしい。これらの症状は、特に乾燥時やパソコン画面を長時間見た時、寝不足の際に起こりやすくなる。頻度は多く40~50歳の女性に多いと言われている。ドライアイ(乾燥性角結膜炎)の他にドライマウス(口の渇き)も伴う事が多い。
■その他、シェーグレン症候群の特徴■
① 本症候群は他に関節、筋肉、腎臓、甲状腺、神経、皮膚、肺などで様々な症状をきたす。
② 関節リウマチの方の15〜25%に合併。
③ 全身性エリテマトーデスをはじめとする膠原病を合併していることが全体の1/3程度ある。
④ 他の膠原病の方でシェーグレン症候群を合併している方は同症状が起こる
★それでは特に眼疾患と関連の深い膠原病関連疾患を表にしてみました★
【表:膠原病、及び関連疾患でみられる主な眼病変】
特に表内※1~※5の疾患に関しましては下記に詳細記載いたします。
※1血管炎症候群
- 血管炎の分類
1)大血管炎:大血管を選択的に傷害する: 大動脈炎症候群(高安動脈炎)、側頭動脈炎などがあげられる。
2)中血管炎・中小動脈を傷害するもの: 結節性多発動脈炎、川崎病、などがあげられる。
3)小血管炎と中血管炎を合併するもの:アレルギー性肉芽腫性血管炎 ウェゲナー肉芽腫症
関節リウマチ、SLE、ベーチェット病によるものがあげられる。
4)小血管炎:細小動脈を傷害するものである。薬剤性血管炎、膠原病関連血管炎、悪性腫瘍関連血管炎(悪性リンパ腫、白血病、固形がん)、感染症関連、血管炎、サルコイドーシスなどがあげられる。
※2:側頭動脈炎:一過性黒内障、複視、視神経症(急な視力低下や視野欠損)、眼窩内血管雑音。
★青字は下記に詳細を解説致しますが、側頭動脈炎に特有の疾患・症状ではありません★
1)一過性黒内障とは:
血管の内壁にできた血栓が剥がれて脳動脈に流れていき血管を詰まらせると脳虚血発作を引き起こす。このような血栓は一時的に詰まっても血栓が砕けたり、溶けて消失してしまうために血流が再開する為、症状も一過性で済む。「一過性脳虚血発作」或いは「一過性黒内障」と呼ばれる。糖尿病、高脂血症と、高血圧症いった生活習慣病や、動脈硬化による頚動脈の狭小化(首の動脈が細くなる)によって、一過性黒内障も増加しています。一過性黒内障は、片目が見えなくなるという症状が主です。
その為に患者様は最初に眼科を受診することが多いのですが、受診時には元に戻っている事があります。眼科検査をしても、有意な異常所見が得られない事も多々あります。然しながら症状が無くなったからと言って安心ではなく、再発の危険性もありますし、脳梗塞や心筋梗塞は勿論、網膜血管や視神経への血管への血流途絶の前触れの可能性もある為、内科(特に)神経内科等で採血・心電図・画像診断(CT・MRI・頸動脈ドップラー検査)が必要と考えます。その場合には経過を記載し神経内科医に紹介させて頂いています。
2)複視とは:両方の眼で見るとモノが二つに見える:
片目でみると一つに見えるが両眼で見ると二つに見える
→ 眼球運動障害や眼の位置のズレ(斜視、上下斜視、斜偏位等)を考える。
程度に応じては緊急の頭蓋内画像診断が必要
3)視神経症とは:(虚血性視神経症や炎症性視神症=視神経炎)
視神経の急激な虚血のため片眼、時には両眼の急激な視力低下や視野欠損(中心暗点や、上下のいずれか半分が見えなくなる水平半盲)等が主症状。炎症性では眼球運動痛(眼球を動かすときの目の痛み)や目の圧迫感などを伴う事もあります。視神経症の原因を探るために、視力検査・眼底検査・視野検査(主にゴールドマン視野)のほか、画像診断(CT・MRI・超音波)検査・血液検査などが必要に応じて行われます。
★その他:重大な合併症を引き起こす可能性のある疾患★
※3:ベーチェット病:
15〜40歳の男性に好発し、青壮年期における失明の原因疾患として恐れられています。
ぶどう膜炎の型として、前部ぶどう膜炎(虹彩毛様体炎)、後部ぶどう膜炎(網脈絡膜炎)、更に進行した全ぶどう膜炎に分類されます。90%以上のケースで両眼ともに症状が現れますが左右差のある場合もあります。治療に反応が悪い場合には続発性緑内障、新生血管緑内障、視神経萎縮等を起こし失明する場合も少なくはありません。ベーチェット病の確定診断のついた方、又はベーチェット病の疑いの強い方にはステロイド剤の全身投与は慎重に行わなければ、治療による経過は返って悪い結果になる場合が多い為、注意が必要です。
『ベーチェット病の眼以外の症状』
・主症状:皮膚科的所見は男女ともに9割程度の患者さんにみられ、結節性紅斑や皮下の血栓性静脈炎、毛嚢炎様皮疹等。その他、頻発する口内炎(口腔内アフタ)、陰部潰瘍等も認められます。
金属アレルギーの方も要注意です!。
・副症状:副睾丸炎・関節炎・血管病変・消化器病変・中枢神経病変等
※4:ウェゲナー肉芽腫:
血管炎の1つで、鼻腔、上気道、肺などの下気道等に、血管の炎症により血管が腫れたり詰まったりし、また、炎症をおこした細胞やその破片によって肉芽腫(腫瘤の様なモノ)ができる病気です。
★この疾患の主な眼所見や合併症は「眼窩内腫瘤による眼球突出」「充血」「視神経症(圧迫性虚血性)」です★
※5:アレルギー性肉芽腫性血管炎:
目の症状は少ない。結膜の肉芽腫、前部ぶどう膜炎、眼窩炎症、網膜血管閉塞症(網膜静脈閉塞ないし動脈閉塞)の報告がある。
★膠原病の眼科的合併症の症状(重要!)★
1)ぶどう膜炎の症状
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前部ぶどう膜炎(虹彩毛様体炎)では、充血、眼痛、流涙、羞明、視力障害
-
後部ぶどう膜炎=(硝子体炎・網脈絡膜炎)では視力障害、飛蚊症、視野欠損 等
2)強膜炎の症状
- 結膜充血・痛み(鈍痛)・白目の充血部盛り上がり・再初を繰り返すと強膜が薄くなり「ブドウの巨砲」の様な紫色を呈してくる(強膜の非薄化により脈絡膜=ブドウ膜が透けて見える様になる)。白目は結膜の色ではなく強膜の色です。結膜は強膜を覆う透明な膜なのです。
3)網膜血管閉塞症(動静脈閉塞症)の症状
この疾患に関しましては「眼疾患と症状8回 ストレスが原因となる眼疾患:その2」の虚血性眼疾患の項に数例の眼底写真を掲載しておりますのでご参照くださいませ。
・急激な視力低下・視野欠損・歪んで見える・暗く見える部分がある等
4)視神経症(虚血性・圧迫性)の症状
・急激な視力低下・視野欠損(中心暗点、水平半盲 等)・暗く見える部分がある
5)ドライアイ=乾燥性角結膜炎の症状(詳細は上述)
またまた長くなってしまいましたが、ご自身の体を守るのはご自身です。膠原病等という、そもそも原因の判っていない病気にこれだけの眼疾患や症状が関連している事だけでも頭の片隅において頂ければ幸いです。
「眼の病気と思っていたのが実は膠原病が原因だった」といち早く診断を付ける為にも、患者様の眼以外の症状、また「病歴聴取」が如何に大事であるかもお判り頂けたかと思います。「関係ないかな?」と思われましても、眼の症状以外の体の異常、過去に疑われた病気のお話をお聞かせ頂ければ、当方の診断の一助になりますのでお話しいただければ幸いです。一緒に病気の原因追求を致しましょう。
追記:本稿の一部に記載されました川崎病、悪性腫瘍関連血管炎(悪性リンパ腫、白血病、固形がん)やサルコイドーシスと眼疾患の関係につきましては、別稿で紹介予定とさせて頂きます。
文責:藤田