眼疾患と症状 「こんな症状はありませんか?」

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第7回:視力低下「ストレス性:小児~思春期編」

投稿日:2013年5月2日(木)

学校検診の時期です。今回は子供(小児~思春期)のストレス性眼疾患についてお話しをします。

現代の子には親が考える以上にストレスが多い様です。外来にも「子供が見えないと言っている」「学校検診で視力低下のお知らせが来た」との事で受診される方が増えています。殆どが近視・遠視・乱視等の屈折異常で、病気ではなくメガネで視力が充分に得る事ができます。

しかし中にはレンズで遠視や近視・乱視を矯正しても見えないという「病的な視力低下」を考えなければならない場合もあります。

※矯正した視力(以下:矯正視力)が1.0以上得られなければ病的視力低下を考えます。※

 

外来では矯正視力が1.0未満の場合には眼の表面から眼底まで詳細に検査をし、病気の有無を確認します。

一例ですが、初診で矯正視力が両眼とも0.3までしか得られないケースもあります。その様な場合には当然、病気を疑います。勿論、調節麻痺剤(眼の緊張を取る目薬=瞳孔が開いて眩しくなってしまう目薬)の点眼をして頂いた上での屈折再検査(眼を安静な状態にして遠視や近視の度数に変化が無いかを診るための検査)も施行し、再度、矯正視力の確認もします。その上でも矯正視力が出ないし、散瞳下(瞳孔が開いた状態)の顕微鏡検査や眼底検査でも、どこにも病的な所見は無い!。特に検査で矯正視力が得られない以外に、目の奥の痛みもないし、視力低下を感じた時期もいつからかハッキリしない。「脳の病気?」とも考えますが頭痛や吐き気も無いし、調節麻痺剤点眼前の検査で瞳孔の異常(対光反応の異常・左右の瞳孔の大きさの違い)も無く、全身的に神経障害も無さそう・・・。その様な時は「心因性視神経症」を考えます。一見、難しそうな病名ですが「目の心の病」と思ってください。この病気は決して珍しくはないのです。当院でも年間6~7例の「心因性視神経症」の患者様が来られております。

診断はゴールドマン視野計による視野検査の結果でつく事が殆どです。最近はいろいろな眼の病気に対して「自動視野計」というコンピューター相手の視野検査機器を使用される事が多いのですが、「心因性視神経症」に関しては自動視野計では診断がつきません。視野の全体像を診る事が可能な「ゴールドマン視野検査」を受けて頂く事で、この病気に特徴的な「らせん状視野」「求心性視野狭窄」が得られる事ができます。

特に求心性視野狭窄は通常、器質的疾患である網膜色素変性症・緑内障等の末期で無い限り「あり得ない視野欠損」です!。

ゴールドマン視野計

ゴールドマン視野計

正常視野検査結果

正常視野検査結果

らせん状視野

らせん状視野

求心性視野狭窄

求心性視野狭窄

ゴールドマン視野計は視野の全体像が把握可能で、脳梗塞・脳腫瘍による視野欠損の診断、網膜色素変性症の進行期分類の決定、今回記載の心因性視神経症の診断など、数多くの眼科的疾患の診断には欠かせない大切な視野検査機器です。自動視野計に慣れた患者様がゴールドマン視野計を観ますと「旧式の機械だなぁ~」とウチの視能訓練士も患者様からお言葉を頂く様ですが、ある意味、自動視野計よりかなり「お利口さん」で「働き者」で、自動視野計より幅広い疾患の診断には欠かせない機器なのです!。当院では両方の視野計を取り入れ、疾患によって使い分けをしております(当院の設備参照)。

 

心因性視神経症の原因の多くはストレスと言われています。教科書的にもいろいろと原因が挙げられていますが、私が経験した例では新入学・転校・友人との別れ等の環境の変化、親の夫婦喧嘩・母親の妊娠・兄弟喧嘩などの家庭内での変化、その他、「実は習い事が嫌だった」等の些細な事でも原因となりえます。素直で真面目なお子様に多い傾向にあるとも言われております。

この病気を考えた場合には、ご家族にもお子様の見え方に急激な変化が無いかをご家庭でも注意をしてみて頂くというご協力を頂きながら、何度か視力検査をはじめとした眼科的検査を行うために通院して頂きます。特に就学時前のお子様には「視力検査に不慣れ」という可能性もありますので、「練習」の意味も兼ねて通院して頂きます。それでも視力低下に明らかな悪化や回善はなく、経過中に眼底疾患等は認めないものの、やはり矯正視力が出ない場合にはゴールドマン視野検査を行います。勿論、場合によっては緊急にゴールドマン視野検査が必要な場合もあります。診察によって明らかな病気を認めないにも拘わらず、視野検査の結果「求心性視野狭窄」や「らせん状視野」を認めた場合には、ほぼ確定診断となります。

 

視野検査結果でも「心因性視神経症」の典型的でない結果である場合には、脳の画像診断やVEP(視覚誘発電位検査)等の検査を受けて頂く場合もありますが、「稀」です。

 

この疾患の治療法の前に「予後」をお話しいたしますが、大抵は数か月で治癒し、矯正視力が得られるようになり、視野も正常に回善します。早期にストレスの原因を突き止め、さり気なくストレスを排除する事が出来れば、視力回復まで比較的短期間ですむ場合があります。経過が長ければ3か月以上かかる事もあります。また「心理的ストレスが重度」と考えた場合には心療内科受診をお奨めするという場合もあるようですが、幸い私の経験上では心療内科を紹介せずに治った例が殆どです。

また、この病気で失明することはありません。経過観察と供に視力低下がドンドン進行するようであれば、再度、他の眼疾患も考えなくてはなりません。

大学病院勤務時代に夜中に救急外来に「子供が突然、暗くて何も見えないと言っている」との事で7歳児が受診した事がありました。視力を測定した処、両眼とも矯正視力が「手動弁」(手を振っているのがやっと判る程度)でした!。眼科的検査でも視力低下の原因になり得るほどの病気はなさそうでした。その矯正視力でも薄暗い救急外来の廊下を一人で普通に歩いています。診察時に、何気なく小さなクリップを床に落として、「ごめんね、拾ってくれる?」とお願いすると拾ってくれます【今では考えられませんネ・・汗】。手動弁の視力ではとても無理な行動です!。その際には一度帰宅して頂き、後日、視野検査を施行した処、見事に「らせん状視野」が得られました。ご両親に子供のいない所でお話をお聞きすると「大好きだったお爺ちゃんが、つい先日亡くなられた」との事でした。余程、悲しかったのでしょう。お子様も経過観察のみで約1カ月ほどで視力は両眼とも1.5まで戻りました。子供心は本当に繊細です。

さて治療です。まずはストレスの原因追究です。脅かすように聴取するのは返って逆効果です。さり気なく、お子様をいつもより更に注意深く観察して下さい。場合によっては学校や習い事先の先生に「最近、変わった事は無いか」等も聞いて頂きたいと思います。

ストレスの原因が判れば、原因の排除で徐々に回復していく事が多いようです。経過観察中にお子様自身が見えない事に不安を持ち始めているような場合は「良く効くクスリを出すから、しっかりつけてね」とビタミン剤点眼薬を処方する事で安心感を持って早目に治ってくるケースもあります。また、視力低下の原因がストレスではなく、「メガネが欲しい」という「メガネ依存症」が原因であった心因性視神経症のお子様もおりました。裸眼視力も矯正視力も両眼共に0.4までしか得られなかったにも拘らず、そのお子様に度数の入っていない只の素通しのレンズ付きのメガネを処方した処、矯正視力は勿論、裸眼視力までも1.5まで出る様になりました。子供心って本当に難しいですね!。

最後になりますが、あくまで心因性視神経症は器質的疾患ではありません。ご家庭で「眼科に行って、視野検査結果等で心因性視神経症を確定診断しているので大丈夫」といった油断は禁物です。経過中に本物の眼疾患にかかってしまう可能性もありますので、再度、お子様に視力低下の訴えがあった場合も「え~っ?、また~?」とは思われずに信じてあげて下さい。その上で早期に眼科受診お奨めいたします。

次回は大人の「ストレス性眼疾患=ストレスが原因になり得る眼疾患」を掲載の予定です。ストレスとは自律神経のバランスを崩す事により「ドライアイ」等の疾患はもとより、他の重篤な視力低下を引き起こす様々な「虚血性眼疾患」の原因になります。今回は触れませんでしたが、お子様も小学校高学年~高校生になりますとストレスが原因でドライアイになったり、その結果、まばたきが異常に多くなったり、チック症様の症状が出てくるようになってしまいます。「ストレスの排除」と簡単に言いますが、現代社会では難しいのが現状です。

ストレス性の眼疾患は本当に沢山あります!。出来るだけくどくならない様に、短めに記載出来る様にがんばります!。次回は学校検診終了後に掲載予定ですので宜しくお願いします。

文責:藤田

 

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