患者様は60歳台後半の女性の方。以前勤務していた病院でのエピソードです。
「最近テレビを観ていてもスリガラス越しに観ているように見えたので、テレビの調子が悪いのかと思いテレビを買い替えたが、やはり白っぽく見えるので目のせいかと思い受診しました。」との事でした。
矯正視力は両眼共に0、8という視力でしたが、水晶体(カメラでいえばレンズの役割をしている組織)に濁りが生じておりました。4~5時間眩しくなる瞳孔を開く目薬(散瞳剤)を点眼させて頂き、眼をくまなく診察した処、幸い眼底(網膜・黄斑部・視神経)には異常は無く、水晶体に加齢性と思われる混濁を認め「白内障」と診断いたしました。矯正視力も0.8と、運転免許更新でも合格できる視力であり、私生活にも支障はないとの事でしたので、特効薬ではないにしても進行を抑えるための白内障進行予防薬を処方した上、紫外線防止を指示させて頂き、経過観察と致しました。勿論、進行した場合は手術適応となります。この様な症状があった際には、テレビの買い替えより、まず眼科受診をお奨めいたします(^_^;)。
眼球断面図の前方(左)にある「水晶体」が濁る病気を白内障と呼びます。
現在も「白内障」の診断にて経過を定期的に診させて頂いている患者様は多数おられます。再診して頂く主目的は「白内障の進行状態」の確認です。然しながら、眼科医的に本音を申し上げますと、経過観察の主目的は「白内障以外の眼底疾患等が合併していないか否か」の確認なのです!
ここで皆様に知って頂きたいのは、皆様の眼科主治医が「白内障ですね」と言って治療・経過観察しているからと言って「ある日突然、右眼が見えなくなった」との自覚症状があった際に、「眼科の先生は先日、白内障があるからって言っていたので白内障が進んだんだ」と自己判断されて頂きたくないという事です。白内障という病気はあくまで「徐々に進行する」という事が特徴です。「ある日突然観にくくなる」という事は絶対と言ってよい程あり得ません!
この様な場合は「眼底出血」や「虚血性眼疾患」等を念頭において診る必要があります! 「虚血性眼疾患」とは網膜や視神経に栄養を与えている血管が血栓等で急に詰まってしまう事により、突然視力が低下したり、視野が欠けてしまう病気(眼の脳梗塞の様なもの)の総称です。他に急激な視力低下を引き起こす病気には黄斑円孔(突発的に眼の中心部に孔=アナが開いてしまう病気)等も考えられます。 人は両眼でモノを見ていると片目の視力低下に気が付かれない方も多い傾向にあります。特に50歳以降で高血圧・動脈硬化・糖尿病等を持病として持っておられる方は、たまには片目を隠して見て頂き、片目の急激な視力低下が無いか否かをご自分で確認される事をお奨めいたします。実際に自覚症状の変化は無く当院を再診して頂いた際に、片目ずつ隠して行う視力検査にて「片目が見えていない事に初めて気が付いた」という方も多々おられました。
★今回の最大の注意事項です。「白内障で、ある日突然見え難くなる事は無い!」という事を頭の片隅に置いて頂ければ幸いです。★